初めて研修ご担当になる方必見
民間企業の場合、入社すると退職しない限り、業種や業態は基本的に同じです。例えば、カーディーラーに入社した社員は自動車販売業に、銀行に入行した行員は金融業に従事します。しかし、地方自治体は多岐に渡る事業を実施しているため、人事異動で他部署の担当になると、まったく異なった業種や業態に関わる場合があります。そのため、新たな知識や技術を身につける必要が生じます。本編では、人事異動で初めて研修担当者になる方々に必要なポイントを記載しましたので、ご活用いただければ幸いです。
研修の企画立案
5W2Hに当てはめ立案する
研修ご担当者が研修を企画立案する際のポイントとして5W2Hに当てはめて考えると分かりやすいと思います。下記参照
Why | 目的 | なぜ | 超過勤務削減のために |
What | 内容 | 何を | 業務改善研修とタイムマネジメント研修を |
Who | 対象 | 誰に | 中堅職員と係長級職員に対して |
When | 時期 | いつ | 9月から10月の間に |
Where | 場所 | どこで | セミナー施設を借りて |
How to | 手法 | どのように | 外部講師を使って集合研修で |
How much | 予算 | いくらで | 15万以内で |
上記のマトリクスの項目のように、まず研修を開催する目的(Why)を明確にし、その後、何の研修(What)を行うのか、誰を対象にするのか(Who)、そしていつ(When)、どこで(Where)、誰が担当するのか(Who)、そしてどのように実施するのか(How to)を順に明らかにすると良いでしょう。更に、予算(How much)を明らかにすることも重要です。
研修会社の選定
コンテンツで決める
研修会社の選定は、研修会社の創業年度、資本金、従業員数、等の会社の規模ではなく、提供している研修内容をしっかり把握した上で決定することが必要です。なんとなく知名度の高い大きな研修会社を選択しておけば無難だと考える研修担当者がいますが、必ずしも、そうとは限りません。どのような研修をしたいのか研修ニーズを的確に研修会社に伝え、企画書やカリキュラムを策定してもらい、内容に関して不明な点があれば質問し、御自身が納得された上で決定することが望まれます。
費用に見合った内容か
研修会社によって研修費に大きな開きがあります。一般的に大手研修会社ほど、金額は高い傾向にあります。理由は会社の維持運営費、広告宣伝費、人件費に掛かる経費が高いからです。実施する研修が費用に見合った内容なのか、必要に応じて数社の研修会社と比較して費用対効果を検証することが肝要です。
研修講師の選定
講師の登壇実績
同じ研修会社の同一カリキュラムを使用していても、講師の研修進行や時間配分、事例の選定によって、研修内容が大きく異なることがあります。言い換えると、講師の力量によって研修の効果に大きな差が生じる可能性があります。ですから、講師を選定する際の基準の一つとして、その講師の経験や実績が参考になります。
講師のリピート率
登壇数の多い講師は、毎回新規の顧客に対して複数の研修を実施するのではなく、同一団体からのリピートが多い傾向があります。その理由は、彼らの評価が高いからです。実際、研修アンケートには「他のメンバーにも受講させるべき」「次回の研修も同じ講師を指名してほしい」といったコメントが多く寄せられることがあります。従って、リピート率も参考にしたいところです。
研修内容と講師のキャリア
たとえば、管理者研修を実施する際に、管理者経験のない人が登壇したり、営業研修を行う際に営業経験のない人が講師だったりした場合、一般的な理論や他所から借りてきた事例を話すことはできるかもしれません。しかし、やはり担当講師の実体験に裏付けられた講義の方が説得力があるのは言うまでもありません。
事前に聴講する
一番確実な方法は、事前に講師の研修を聴講することです。このような場合、出来れば同じテーマの研修が望ましいのですが、他のテーマの研修内容でも充分講師の力量を判定することができます。
また、実際の研修を録画してホームページにアップしている講師もいるので、一度ご覧いただくと参考になると思います。
講師の研修スタイル
講師の研修スタイルは様々です。大講堂で行うような一方通行の講義をする講師もいれば、ツーウェイコミュニケーションでユーモアにあふれ、受講者を魅了する講師もいます。研修内容や受講者の数によってもスタイルが異なりますが、どのような研修スタイルの講師なのかを事前に確認することが重要です。
講師と担当者との相性
担当講師と研修担当者は、開催日の調整や研修内容、準備品など、さまざまな面で事前に打ち合わせを行います。また、研修当日には一緒に昼食を取るなど、多くの接点があります。このような場面では、互いに何でも気軽に話せる関係を築くことが大切です。したがって、自分と相性の良い講師を選ぶことがポイントです。
研修の事前準備
研修案内の発信と動機付け
研修の日時が確定したら、できるだけ早い段階で研修案内を発信します。受講者の都合も考慮して、対象者が管理者であれば直接本人宛に、一般職員であれば直属の上司宛に発信し、確実な参加を促します。さらに、研修受講前に上司と受講対象者である部下で研修の目的を共有し、上司から部下にしっかり受講するように動機付けする旨を伝えると良いでしょう。
必要に応じて事前課題を
研修の内容量に対して研修時間が制約される場合、事前に受講者に課題を依頼することで、研修当日の時間を効果的に活用できます。このような状況では、講師と研修担当者が密接に連携し、事前課題の内容を適切に設計する必要があります。
研修会場の机と椅子の設置
受講者の席の配置には、教室スタイル、アイランドスタイル、コの字スタイル等々、さまざまな配置があるので、研修内容に合わせてどのようなスタイルが望ましいのか事前に確認し、設置する必要があります。また聴講者がいる場合は後方に聴講席を準備します。
プロジェクターとスクリーンの設置
研修ツールは多岐にわたりますが、現在はパソコンとプロジェクターを用いて、スクリーンに投影するスタイルが主流です。したがって、研修担当者は事前に設置し、投影してからピントが合っているか、画面サイズが適切か、電源コードやケーブルが足に絡まないように収まっているかなどを確認する必要があります。
ホワイトボードとマーカー
必要に応じてホワイトボードにメモ板書することがあります。このとき、書き残しが残っていたり、ボード全体が薄汚れていたり、板書すると字がかすれてしまう、ということがあります。研修ご担当者は事前に簡単に清掃をしておくと共に、インク残量のある黒、青、赤の3色マーカーの準備しておくと良いでしょう。
テキストとシートの配布
テキストは事前に受講者の机に配置し、シートは適宜配布するのが一般的です。シートは少し余裕を持って用意し、講師席近くの机に準備しておくと良いでしょう。ただし、配布する際に注意が必要です。シートを受講者ごとに丁寧に1枚ずつ分けて準備してしまうと、必要に応じて配布する際に時間がかかってしまう恐れがあるので注意が必要です。
その他準備品について
研修会社や研修講師によって用いる教材や備品も様々です。パソコン、プロジェクター、伸縮タイプポインター、レーザーポインター、ホワイトボード、黒板、模造紙、マジック、テレビ、ビデオ、フリップ、チャート、パネル、付箋、ハサミ、のり等々。必要な教材や備品は事前に準備しておくと共に、研修担当者はどのように活用するのか必要に応じて確認しておくと良いでしょう。
研修の当日
パソコンとプロジェクターの接続
プレゼンテーションツールは飛躍的な進化を遂げていますが、パソコンメーカーとプロジェクターの相性等の関係で、投影できないことが稀にあります。講師が当日持参したノートパソコンを使う場合など、事前にテスト投影して画像を確認することが必要です。
適切な照度と遮光対策
教室内を適切な照度で保つことは大切です。基本はできる限り明るい環境で実施することが望まれます。しかり明るすぎると、スクリーンの文字が見えづらかったり、西日が差すとまったく文字が判読できないこともあります。したがってご研修担当者は、必要に応じてカーテンやブラインドを調節したり、部屋の電灯を講義の状況に応じてこまめに調整をすることも必要です。
オリエンテーションと講師紹介
通常は研修ご担当者がオリエンテーションで研修目的、研修の心構え、注意点、配布資料の確認等を行い、研修部門の責任者である部門長を紹介し開講の挨拶をした後、研修講師のプロフィールを紹介、バトンタッチというケースが多いようです。この時、講師のプロフィールに間違いがないか事前に確認しておくと良いでしょう。
研修担当者は聴講を
研修ご担当者には、研修を最後まで聴講する人、最初の部分だけ聴講する人、冒頭のオリエンテーションだけでまったく聴講しない人がいます。もちろん、同一の研修を複数回実施する場合は、すべてを聴講する必要はありません。しかし、最低一回は研修ご担当者として研修内容を聴講し、受講者がどのような反応を示すのか、研修効果はどうなのかなどをしっかり把握し、今後の研修に反映することも必要です。
講師に対するフィードバック
研修当日、1回目の休憩時に、時間に余裕があれば、研修担当者に対し、「至らなかったことやご要望がありましたら、ご遠慮なく申し付けください」と打診することにしています。この際、研修担当者の反応として、大半は「特に要望はありません」「同じ調子で進めてください」といった回答が殆どです。しかし、稀に「〇〇の部分をもっと強調してほしい」「中堅年次でマンネリ化傾向にあるので、もっと厳しく指導してほしい」といった具体的なご要望を頂くことがあります。このように、当日対応できる要望に関しては、はっきりと研修講師に依頼することが重要です。
受講者アンケートについて
アンケートは記名式か無記名式か
記名式と無記名式のアンケートにはそれぞれメリットとデメリットがあります。どちらが適切かは、研修の目的や受講者の特性によって異なります。
◎記名式のアンケートのメリット
提出後、研修部門の担当者や上司が見ることもあるので、あまりぞんざいな書き方はせず、記述量もある程度確保できることが多い。
◎記名式のアンケートのデメリット
低い評価を付ける場合、理由等を尋ねられることもあるため、無難な記述が多く、本音を記述しないことがある。
◎無記名式のアンケートのメリット
匿名性が受講者を開放感に導き、より率直な意見を提供しやすくなる。
◎無記名式のアンケートのデメリット
内容の是非に限らず、記述内容についてフィードバックやフォローをしたくても、受講者が特定できず、フィードバックや問題を解決できないことがある。
アンケートは何段階評価が良いか
受講者アンケートの評価は一般的に5段階評価が良いとされています。この5段階評価は、以下のように表現されることが一般的です
非常に悪い
悪い
普通
良い
非常に良い
◎5段階評価のメリット
このような5段階評価を使用することで、受講者が研修内容や講師の質に対する満足度を相対的に表現しやすくなります。また、評価が量的かつ定量的であるため、統計的な分析や比較がしやすくなります。
◎5段階評価のメリット
当該研修について、良いか悪いかを判断する際、普通だと、どちらの傾向が強いのかを判断することができないことがあります。
◎4段階評価のメリット
程度の差こそあれ、4つのカテゴリで良いか悪いかの評価に分けることで、傾向分析や集計ができ、研修の効果や受講者の満足度を理解しやすくなります。
◎4段階評価のデメリット
中立的な選択肢がないと、受講者が自分の意見を適切に表現できない可能性があり、その結果、受講者は適切な評価を行えず、評価が偏ったものになる可能性があります。
◎3段階評価のメリット
3段階評価は選択肢が少ないため、シンプルでわかりやすく、迷うことなく素早く回答でき、回収率が高まります。
◎3段階評価のデメリット
3段階評価では、評価の細かさに欠けるため、評価結果から詳細な洞察を得ることが困難になる可能性があります。
以上、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、使い分けることが大切です。
受講者のポジティブフィードバックとネガティブフィードバックについて
アンケートの評価項目に、「講師の進め方のスピードは適切でしたか」という項目について、一部の受講者が「ちょっと速すぎてついていけなかった」という記述があったとします。
しかし、全体的な評価では、8割の受講者が進め方のスピードは適切だったと評価し、記述内容にも「とてもテンポが良かった」と書いてあったとします。この場合、多くの研修ご担当者は、低い評価を改善しようと、「ちょっと速すぎてついていけなかった」という評価があったので、次回以降は、もう少しゆっくりしたテンポで実施してくださいという指示を頂くことがあります。
しかし、ゆっくりしたテンポで実施すると、テンポが良かったと評価してくれた受講者が、なんかスローテンポだと思われる可能性も出てきます。そのため、研修ご担当者は、ネガティブなフィードバックのみを捉えるのではなく、全体を把握して全体最適な研修を提供することに意識を向ける必要があります。
難しい研修と易しい研修は、どちらが良い研修か
たまに見かけるのですが、評価項目に「研修の難易度」とあり、"とても難しかった"、"少し難しかった"、"難しくなかった"、"まったく難しくなかった"、という評価基準があったとしましょう。
この場合、“とても難しかった”や“難しかった”に評価が集中すると、多くの研修ご担当者は、今回の研修に対する評価が"難しかった"という評価が多かったので、次回できれば改善してくださいというご指示を頂くことがあります。
しかし、「難しい」の反対語は「易しい」ですが、そうすると、難しい研修と易しい研修では、どちらが良い研修なのでしょうか。これは素朴な疑問です。今まで気付かなかったことにスポットが当たり、いろいろためになったけど、かなり難度が高い研修と、日頃から意識して実践している分かりやすい簡単な研修ではどちらが望ましい研修なのかを、研修ご担当者はよく考えて講師に意見を言うことが求められているように思います。
なので研修ご担当者は「研修の難易度」について、知りたいのであれば、一例として下記のような設問にしては如何でしょうか? このような場合、❶❷のような評価が多かった場合、当然研修ご担当者は講師に対して改善を求めることが必要になります。
❶ 簡単な内容で、新たに学ぶものはなかった
❷ 難しい内容で、よく理解できなかった
❸ 普通(どちらとも言えない)
❹ 簡単な内容だが、基本が再確認できた
❺ 難しい内容だが、大変参考になった